演目:茅ノ輪(ちのわ)
一人の旅人が出雲路へ向かう途中の山中で暴雨に会い、日も暮れ一夜の宿を求めなければならなくなりました。山中をさまよっているうちに、一軒の豪邸が目の前に現れ、喜んだ旅人は早速その家の主人に事情を話しました。しかし主人は、そんなどこの誰かも分からない者を泊める部屋もなければ食料もないと断り、旅人を追い払ってしまいました。その主人の名は巨旦将来(こたんしょうらい)と言います。途方に暮れた旅人が山中をさまよっていると、今度は貧しげな家が目の前に現れました。同じように旅人がその家の主人に話をすると、主人は旅人を喜んで家に招き入れ、粗末だがと、自分の夕食にと用意してあった食事を旅人に与え、藁で寝床を作り泊めました。この小さな家の主人の名は蘇民将来(そみんしょうらい)と言い、巨旦将来の兄でした。翌朝、旅人は蘇民将来にお礼を述べ、茅の茎で作った輪を手渡し、「私の名は須佐之男命(すさのおのみこと)という。その輪を肌身はなさず持っていれば決して疫病にかかることはない。永く家門にかけ子孫に伝えるならば、今は貧しくとも必ず栄えるだろう。」と告げ、旅路についたのでした。やがてこの地に疫病の神である過津日神(まがつひのかみ)が現れて猛威を振るい、巨旦将来は滅びてしまいましたが、蘇民将来は「茅の輪」のおかげで難をのがれ、末永く栄ました。